エッセイ86-Essay86-2000.12
熟  成
 ミレニアムだ、世紀末だと至る所で形容された年も、あと二十日余りで終わ る。二十一世紀目前、私はこの先の我が人生模様に想いをいたす。

 振り返ると、五十年にわたって科学と言われる諸分野、加えて人間や自然に向かって、諸科学とは異なったアプローチを必要とする哲学、神学、信仰など、実に多くの学びをしてきた。それらが、今ようやくブレンドされ熟成が始まった。

 二十世紀は戦争の世紀、科学の世紀と言われているが、次はおそらく知恵、精神の世紀になるだろう。そうでなければ人類に明日はない。
 地球温暖化の影響が、すでに南の島々の海水面上昇という形で現れはじめた。環境ホルモン、オゾンホール、砂漠化など、今後二十世紀の付けがさまざまな形でのしかかってくる。 的確なる対処のためには、深い知恵が不可欠だ。

 私は商売柄いつも次世代の主役達と向き合っている。今後ますます、彼らに様々な学問を通じて知識からそれの応用「知恵」を引き出すすべを教えることにしよう。もう単に進学の為の学力向上などに限定した授業をやっているだけではすまされなくなってきているのだ。

 私の同世代者達は定年期にさしかかった。顔を合わせると、血圧、糖尿、心臓が、と持病の話に花が咲く。私は腹の中で小言をいう。  「けっ、現役大学生の前で病気自慢はやめときな。みんな、これまでの人生経験を基に、子や孫に本当の人間教育を始めなきゃならない歳を迎えているというのに。」 還暦をすぎてから一層意味深い人生が始まるのだ、と思い定めなければ、寿命の延びた甲斐がない。

 前述のごとく、私はここまで歩み来て心に多少の余裕が生じ、道を照らす松明(たいまつ)も手にした。必要な人には差し上げることができるだろう。
 今後、老壮青少各世代が、知恵を使い慈しみあって厳しくもあろう新世紀を乗り切らねばならないが、その道の上にいささかなりと資していこう。


ご意見・ご感想をお寄せください。
mail :
ny-kaba@js2.so-net.ne.jpメール