エッセイ56-Essay56- 1997.08

<二重唱>

 ホーホケキョー   ホーホケキョー  向かいの森で二羽のウグイスが短い間隔で鳴き交わしていた。私の経験ではウグイスがこれほど近距離で鳴きあうことはめったにないことなので、興味を持って耳をかたむけていた。   

 「それにしてもどちらも甲乙つけがたくうまいなー。」

 ここ数年、このあたりを縄張りとしていたやつの唄は気にいらなかった。

 ホーホケキョ ケキョ と、うしろに余分なお囃子をいれる。私にはこれが耳障りであった。それでこんな歌を詠んだことがある。

 

 ホーホケキョケキョ ケキョは余分だ そこな鳥 

 もっともこの歌も冴えなかったが。

 ところが今年、春以来ここに住み着いたやつは、とてもうまく唄った。なんとも心地よい響きに毎日ごきげんですごしてきた。

 左右の唄声の間隔がしだいに短くなってきた。片方が唄い終わると間髪をいれずにもう片方が詠ずる。ホーホケキョー ホーホケキョー

 そして、ほんの一呼吸の間があったのち、その出来事は起こったのだ。

 ホーホケキョー 寸分のずれもなく見事な二重唱が。

 「ヤッホー」私は思わず歓声をあげながら拍手をおくっていた。音程は一度半か二度だったと思うが、すばらしいハーモニーであった。

 彼らの唄声は今でも私の三半規管にきっちり保存されていて、くっと心をすますとリアルに聞こえてくる。

 あれはけっして縄張り争いの威嚇の声ではなかった。七月末という時期からいって、母鳥が若鳥に歌唱指導をしていたのだと思う。

 もうお盆も終わり、ウグイスはじめ多くの小鳥達が南へと旅だった。静まった森の道、私はあの重唱を心のオーディオで再生しながら逍遙している。

 来年もまたあいつに来てもらいたい。



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