エッセイ74-Essay74- 1999.01
<スキー場にて>
「こうやって足を両側に出して。そう。こっちに曲げるときは、この足でグッと雪をおすんだ。そっちはこの足でやるんだぞ。」
「うん、わかった、ジーちゃん。」
大山スキー場のボブスレーゲレンデで、孫にソリの操作を教えている。
この孫の母親が幼かった時も、よくここへつれてきて、一緒に雪にまみれていたものだ。だが今は実演指導ができないので、繰り返し言って聞かせる。やがて彼女は要領を覚え、うまいことソリをあやつり滑り降りていく。
「久しぶりだなー。」
千メートル先の頂上から一気にすべりおりていた日もあったのだが、杖の助けがないと歩けなくなって、ここ八年はすっかり縁のない場所になっている。
リフトも二人掛けに変わっていて、以前のように行列はできないし、ボーダー達もつぎつぎ目の前を横切り、私の知っているゲレンデとはすっかり様変わりしていた。
「なんだ、あのにーちゃん、やけに下手だな。足さえ動けば、俺だって、ボードをやるんだが。なんぼなんでも、あれほどひどくはないだろう。」
いつのまにか、フォームを作ってしまっていた。しかし口はなめらかに動くが、左足がだめだ。現実はきびしい。もう、ここで雪煙を上げることはあるまい。
「ジーちゃん、ソリがうまくできるようになったら、スキーもおしえてよ。あんなちいさいこでもスキーやってるし。」
「うーん、教えてやりたいけど、ジーちゃん、足、動かんからなー。」
「だってあるいてるんだから、うごいてるっしょ。」
「杖がなかったら、歩けないから、だめなんだ。」
「ふーん。だけどあのこのやりかたみてたら、もうわかったよ。こんどスキーかってね。」
「だいじょうぶかな。曲げたり止まったりできないと、ケガをするんだぞ。」
「だいじょうぶだって。」
「じゃー、みさとのお年玉で買うか。」
「やだよ。ジーちゃんのおかねでかってよ。」
「なんだ、しぶちんだなー、みさとは。」
「だってせっかくもらったのに、すぐなくなっちゃ、いやだよ。」
「この、ちびさん、なかなかやるな。でもこのくらいしっかりしてる方がいいか。」
甘く見られたジーちゃんは、すでに、スキー用品一式について、胸算用を始めているのであった。
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