「ウーン。エイッ。フー」私は足もとの草むらに、ちいさな声を聴いた。
「あれっ、誰かいるのかな」瞳をこらしていると、かすかな草のゆれが目に止まった。
「チックショー、キツイナー。ハーッ」
「なんだ、おまえは蓑虫じゃないか。何をそんなに力んでいるんだ。」
「オマエコソダレダ。ウルサイナ。ジャマシナイデクレ」
「あー、蓑を脱ぐのにがんばっているのか」
近くの木にぶら下がって冬をこしたのだろう。初夏の強い光をあびて卵からかえった蓑虫が、そこらをのたうち回りながら蓑から出ようと息をきらしていた。
細長くてずんどうだから、どこが首で胸で腹なのかわからなかったが、蓑から一センチくらい出たところで引っかかっていた。苦労する姿を見て笑うのは悪かったが、私はその奮闘ぶりをにやにやしながらながめていた。
「そんなに力んでいたら、いまに体力を消耗してまいってしまうぞ。」
「ソンナコト、ワカッテラ。アシガジャマダ。ドケテクレ」
「あー、すまん。手伝おうか。後ろの方、俺が掴んでやればすぐ出られるんではないのか」
「イランオセッカイダ。コレガ、オレタチノ、ヤリカタナノダ」
蓑虫のやり方というのはこうである。頭が少し出た段階で、手だか足だかで草につかまり袋の中の体をくねらせ下半身を引き出すのだ。ところが軽い蓑がくるくる動くのでせっかくの力がむだになる。しかしあちらこちら草の中を転げまわっているうちにあんばいよく、草の根本か小枝に蓑が引っかかると、それをてこにむにゅむにゅと引き抜くのである。
「おまえ、そんなに苦労してこの世に出てきても、すぐに鳥やヘビに食われてしまうかもしれんぞ。むだな努力はやめた方がいいんじゃないのか。」
「ウルサイッ。オレタチノ、イキカタニ、ナンクセヲ、ツケルナ。フユガクルマデニ、シソンヲ、ノコスコト。オレハソレヲ、ハタサナクテハ、ナラナイノダ。トットト、ドコカヘ、イッテシマエッ」
失礼なことを言ってしまった。彼の脱出成功と、幸運な一生を願って、私はそそくさとその場をはなれたのであった。