<森の味わい>
三年前、樹木の梢は新芽がふくはるか前から、力んだように赤らんでいるのに気がついた。特にカラ松が顕著にその変化を見せてくれる。私は、くすんだ冬の色からあの燃えるような赤へのうつろいは、いつから始まるのか知りたかった。
今年の二月中旬、空がずいぶん明るくなってきた頃から、家の窓越しに山裾のカラ松林を見守っていた。そうした下旬のある日、うっすらさし始めたその色を認めたのであった。
「あー、ついに春がはじまった。」
この春はことさらに待ち遠しかった。昨年、山々にはブランコ毛虫が大発生して、次々育ってくる若葉を片っぱしから食い荒らした。
それを見て「そんなにうまいものなのか。じゃあオレも」と虫にならって二十種類も食べただろうか。ひどく苦いものもあったが、大半は食べるに問題ないと思われた。特に、桑の葉はおいしく、オカイコさんはいい食料を選んだものだと感心した。
「そうだ、来年は虫たちの上前をはねて、若葉サラダを試食しよう。」
そして迎えた五月中旬、自分の森の中を歩き回って、ハン、白樺、桜、柳の若葉をつみ取った。勿論、木に対し、葉を採ることへの断りはいれた。
さっと熱湯に通し、水にさらしてからマヨネーズで味付けをした。かむと多少ごわつきほろ苦かった。これは柳の味にちがいない。
だが、舌をすますと小さな命達の、春を喜ぶ歌が聞こえた。ただし、木の葉は毒物の合成もする化学工場でもあるから、用心するに越したことはない。
森、そこは私の学びや。五感、六感を働かせながら今年もまた、木や草、鳥、虫たちから生きる知恵を教わろう。オカリナで小鳥達との合奏も楽しもう。私はあまり上手くないから、雛鳥達が音痴にならないように気をつけながら。
額の汗をぬぐい、木陰に座していこうと、新緑の森を吹き抜けてくる風がおいしい。
1995年6月9日