<ヒナは巣立った>
◎ 足下にヘビがいて たじろぎ戸惑う私 激しく蝉しぐれ
◎ 黄、紫、白 大きくても 小さくても 花はそれぞれに うるわしい
五月末、息子に森のササ刈りをしてもらった。一メートルほどに育ったオンコガ出てきた。翌日私は、ぼうぼうと広がった枝のせんていをしていた。
真ん中あたりの枝を切り落としたとき、思わず目をみはった。なんとその下にはお椀ほどの、小鳥の巣がかかっていたのだ。中には小指の頭くらいの卵が五つ並んでいた。青白い地に焦げ茶色のはんてんが入っていた。
「これじゃ空から丸見えだ。カラスに食われてしまうな。補修してやらなくちゃ。」
ぼそぼそいいながら、松の枯れ枝をあて、それにオンコの枝を差し込んで空からの視界をさえぎった。
翌日雨が降った。
「巣がぬれて卵が冷えたら死んでしまう。」朝食後あわてて森へ向かった。
巣に近ずくと父鳥が驚いて飛び出してきた。近くの枝を飛び移りながら、ピッ、ピッ、ピッとかん高い声を張り上げておこっていた。
巣は濡れていなかったので安心したが、さらに念をいれた補修をしていた時だった。突如母鳥が私から二メートルほどの所に舞い降りて、草むらでバタバタ羽音をたてながら騒ぎ始めた。
「まてまて、卵が濡れないように直しているんだから、そうおこるなよ。」私は声をかけたが、身を危険にさらしてまで我が子を助けようとしているその姿に深く感動したのであった。
ふと思った。私は今までに、子供をかばうために命がけのことをしたことがあったろうか。その鳥はスズメほどの大きさの、腹が黄色いアオジであった。
以後、じゃまをしないように双眼鏡で観察を続けた。六月八日、雛がかえり、雄、雌交互に巣の守をしながら、一方がせっせと虫を運び子育てに励んでいた。
そして六月末のある日、その姿は巣から消え失せていた。
私は我が子の旅立ちを見送ったような気持ちで、ぽつねんと木陰に座っていた。ピーチューチュルチュルチー。
森のそこかしこに若々しい歌声が響いていた。
六月末から七月にかけて、カラスもアカゲラもコチドリも、みんな親に付き添われて巣立っていった。
青大将も割り箸くらいの奴が、道ばたの草の中でキラキラ輝いていた。
1995年8月18日