Forest of OKHOTSK
エッセイ3-Essay3-   18.07.1996

<森は音楽堂>


 「ドングリころころどんぐりこ…」
 「デンデンむしむしカタツムリー…」次々、私と間もなく三歳になる孫娘の歌声が響く。
 八月、小鳥達が巣立ったあと、静まっていた森の中が突然騒がしくなった。私が人気のないのをいいことに、蛮声を張り上げだしたからである。
木立の中は音響効果ばつぐんであり、遊歩道、あるいは崖ぶちに立って腹の底から声を出すと、爽快このうえない。九月末から二週間、我が家に滞在した孫がそれに加わった。
 カケスが枝にやってきて、あきれ顔で見下ろしていることもある。
 「やい、カケス、おまえも何か歌ってみろよ。」声をかけるが「ごめんだね。」とばかりに飛び去っていく。
 実は、高校時代の歌仲間がぽつぽつ故郷にもどってきた。誰言うともなく
「また歌うか。」という話になって、私の猛練習がはじまった。
 三十年あまり歌うことを忘れていた私は、記憶の引き出しから古びた歌集を取り出しては歌詞をおう。樹木達が迷惑顔でながめている。
 「枯れ葉よー枯れ葉よー…」シャンソンを歌い始めると、白樺だけは風もないのに葉を散らせて、私の気分をもりあげてくれる。
 「じーじ、ドングリ食べたらおいしいの?」「うん、リスさんは、おいしいっていうよ。」「えーっ、じゃあ、みっちゃんもおいしいかい?」「いや、みっちゃんが食べたら苦いよ。」「えーっ、どーしてえー?」孫はドングリを拾いながら、幼児特有の、どーして攻撃をかけてくる。
 「じーじ、キノコの歌、うたって。」私は即興でいくつもの要求に応える。森におだやかな時が立ち止まる。
 あしたも、晴れるといいな。

1995年10月20日


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