エッセイ5-Essay5-   18.07.1996

<森とパソコン>


 二月の半ばをすぎた頃から、目にみえて日が長くなる。北国の住人はそれだけで、心が浮き立ってくる。
「もうすぐ雪融けがはじまるぞ。」私はつぶやきながらキーボードから手をはなし、窓外の雪景色をながめる。
 昨年の十一月いらい、森にかわって、パソコンというジャングルに迷い込み、もがいてきた。
 長いあいだ、パソコンなどは自分に関係ない、無用のものだ、と見向きもしなかった。
 ところが一昨年、なにを思ったのか、おもちゃみたいなパソコンが付いたワープロを買った。
 使い方など全くわからず、あわてて雑誌を買い込み猛烈な学習がはじまった。一年ほどで百冊以上も読破した。パソコンのおもしろさ、有用さに気が付いた。
 そして世を騒がせたウィンドウズ の発売を機に、待望のデスクトップパソコンを設置した。
 朝七時から夜中の一時頃までマウスをにぎり、キーボードをたたく日が何度もあった。目はショボつき、腰は痛み、肩はこる。しまいに尻の皮がヒリヒリやんだ。
 またたく間に、四月が食い尽くされた。ここ数日は、今話題のインターネットに繋ごうと、悪戦苦闘を続けている。
 パソコンは正直者だ。言いつけたことは文句を言わずにきちんとやってくれる。しかし、融通がきかない。気ずかずに間違った命令をだすと、それが訂正されるまで、頑として命令通りの結果をつきつけてくる。正直も度がすぎると、やっかいなものであることを思い知った。
 ハイテクジャングルの中で疲れきった私は、むしょうに森が恋しい。カラ松林がそろそろ赤らみはじめる。間もなく春だ。もう少しだ。森の雪が融けるまでに、パソコンをある程度仕上げておこう。かくて今日もまた、マウスのボタンをクリックする。

1996年3月8日


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