Forest of OKHOTSK
エッセイ6-Essay6-   18.07.1996

<森のエキス>


 直径30cmほどの白樺にねらいをつけ、ビリッと冷たい幹を手のひらでさぐる。 「よし、ここにしよう。」私はぐっと力を込めドリルをまわす。 1cmあまりも切り込むと、その小さな穴から、こんこんと樹液があふれ出てくる。「おー、もう水の吸い上げが始まっているんだ。」そこに、曲がるストローの短い方をさしこみ、角形ペットボトルで受けるように細工する。
 例年、森に入るのは5月だが、今年は体調もますます良好なので、枝降ろしのため、まだらに雪が残る4月中旬、早くも森通いをはじめた。作業をするには、うるさいブヨや蚊がいなくて、もってこいの時節なのだ。
 カラ松、赤エゾ松の枝降ろしに精をだした。杖をつきながら笹をかきわけ、目指す木にたどりつき、片手だけでノコを使うことは、結構な重労働であった。 小雪が舞い、冷たい風が吹き抜ける日よりだったが、2時間位もたつと汗が頬をつたい、喉もカラカラになっていた。
 「ひと息入れるか。」私は、高枝用のノコを懸命に引いていた妻に声をかけ、先程仕掛けをしておいた白樺のところに近ずいた。 驚いたことに、すでに1リットルほどの樹液がたまっていた。 ビンの紐をほどくのももどかしく、微かに甘いそれを、ゴクゴクと喉に流し込んだ。瞬く間に、ほてった体のすみずみにまでしみわたった。 樹木と草々、鳥や虫やけもの達が、協力して創った豊かな土壌からの贈り物、白樺がポンプとなって届けてくれた純天然のミネラル水だ。
 「ありがたいなー。はい 、甘露。」そう言いながら私は、同じく汗ばんで、顔が赤くなっている妻に、ボトルを手渡した。


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