Forest of OKHOTSK
エッセイ35-Essay35- 28.12.1996

<海が見えた>

 今日は久々に快晴。朝からウキウキ、そわそわ、カメラを携え山に向かった。昨日、森の遊歩道で非常にかわった植物をみつけた。しばしば図鑑を眺めているので、そういうものがあることはしっていたが、まさかいつも歩いている道ばたでそれを見つけるなどとは思ってもいなかった。

 常の如く、あちこち草の中を睨みながら、何かないかとゆっくり歩を運んでいた。道は、大きく育った木の葉でおおわれ空気さえも緑に色ずいている。崖ぶちに、何年間にもわたってつもったナラの枯れ葉が層をなしたところがある。
 その中に一箇所こもっと盛り上がったところがあった。おやっと思い、杖で枯れ葉をよけてみると、白っぽい、一見キノコにも見えるおかしな形をした花が顔をのぞかせた。あっ、ひょっとしたら、図鑑にあったあの寄生植物じゃないのか。
 そうだ。まちがいない。それはギンリョウソウ(銀竜草)という、葉緑素を持たずに、ほかの植物から栄養をもらいながら生きるちゃっかりものであった。草丈十センチ足らず。茎も葉も花びらもおなじ材質で出来ているようにみえる。
 植物というよりキノコといったほうがピンとくる。あまりに奇妙なので説明が難しい。ダニがつくのもお構いなしに、草の上に腹這いになって懸命にカメラの焦点あわせ、数枚おさめた。
 あの何とも奇態な雰囲気がうまく捕らえられているといいのだが。

 私は山道を走る際、道のノリ面を特に注目する。山肌はササに覆われて、他の植物は生えにくいが、道路を造るために削られたノリ面は、日当たりがいいので様々な草草が先をきそって場を占めに掛かる。
 したがって植相が豊かであり、珍しい物の発見がある。ほとんど車のこない深い山の中では、車を右に寄せ歩くようなノロノロ運転で窓から身を乗り出して観察を続ける。

 今日は、いつもの花園からさらに峠を二つ越えた。沢から吹き上げてくる甘い森の風のなか、ウオー、キエー、バオー、様々な奇声をあげ、びんびんと全身に迫る深い深い森の気を浴びながら。
 日射しはきつく、車内の温度はかなりあがっていたが、四つの窓をあけはなち、木陰では車外に出て樹木や草花を眺め、気なりに気ままに森とたわむれた。
 二つ目の峠を登りきったとき目の先緑の遥か彼方に、青く霞みながらオホーツクが空と融けあってみえた。車のエンジンを切り、しんしんたる山の緑の気の中で、しばし心を空に道ばたでたたずんでいた。

 このごろ我ながらに実感していることがある。霊感の強い人が私を見たら、私の後ろには、背後霊ならぬ、背後森が見えるに違いないと。
 風と遊ぶ木の葉。飛び交う虫、鳥。草を這うヘビや山の斜面を跳ね上がるエゾ鹿などの姿が私を包んで輝いていることだろう。間違いなく我が人生の道は自然の懐に向かって延びている。嬉しいことよ。


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