エッセイ38-Essay38- 1996.07

片足回転投法

 心を無にして空に向かってボールを投げた。弾道はやや低めながら、思っていたより遥か向こうにボールは落ちた。「二十四メートル……」計測員の声。

「おう、行ったぞ。」

 第二投め。「もっと遠くへ。」私は心で叫びながら力一杯体を回した。勢い余って左側へ吹っ飛び転がった。 

 「二十五メートル……」 「やったー。」

六月中旬、湧別町総合運動公園で行われた、身体障害者網走地区スポーツ大会での一コマである。ここ六年、左足を痛め応援団を務めていたが、今年は何とかやれそうな気がして出場を申しでた。そして大会数日前から、石を使って右足だけでいかに遠くへ投げられるか研究をはじめた。結果編み出したのが、右足で構え、そのまま体を左に回転させながら、その遠心力で投げるやり方であった。

 名ずけて、片足回転投法という。

 六年ぶりに握るボールの感触が懐かしかった。九年前、沖縄県で行われた全国大会ではメダルを獲った強者であったが、今年は出場できるだけで満足。結果を云々言える状態ではなかった。何とか十五メートルくらい投げられればいい、と思っていたのだ。ところが六人で競技し、二位の好成績であった。

 足に、この世のものとは思えないような激痛が走り、まる二年、体を縮めうつ伏せにしか眠れなかった。いまだ仰向けに両足をのばしては寝られない。しかし、この六年、ただの一度も病むことに文句を言わなかった。痛みに愚痴をこぼさなかった。それ故ここへきてようやく痛みもうすれ、ついにボールを握ってグランドに立ったときは、言葉にならない喜びに包まれていた。

 人生、紆余曲折は当然だ。これからも、今日一日、今日一日と心明るく生きていくとしよう。


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