エッセイ39-Essay39- 1996.09

花の里山

 これはニリンソウ、これはフッキソウそして……、私は花の名を呼びながら次々シャッターを切る。五月中旬から九月上旬までに二百種近い草花をカメラに収めた。それにしても我が森にはずいぶん多くの花があったものである。

 二、三年前から森の草花に惹きつけられるようになったが、殆ど名を呼ぶことが出来なかった。それで名前を覚えることから関わりを始めた。昨年スミレだけでも五種類あることに気がつき、やがてこれらの接写をしたいとの思いにかられるようになった。そして今年、念願の1眼レフを手に入れ一番咲きのヒメイチゲから追い始めた。

 先日、撮影後木陰のベンチで汗を拭っていたとき、ふと思い当った。今まで、もともと草花があったのを見落としていたのではなくて、ここ数年の間に急激に多種多様に花が咲くようになったから、私の目にとまりだしたのだ、と。この二十年間、竹のように硬いクマザサと格闘し根気よく手入れをしているうちに、森はいつしか「里山」になっていた。

 日本に稲作が伝わって以来、落ち葉をかいて田にすきこんだり、たきぎを集めるなど、人々の日常生活そのものが森の手入れになっていた。そのような身近な森、懐かしい古里の、ウサギ追いしかの山、それが里山である。そこは草花の宝庫でもあった。

 ところが現在、それは国内各地で急速に姿を消しつつある。里山こそがおいしい米を作り、魚を育てていたのに。          

 私は、我が里山をしっかり守っていこう、とつぶやきながら、今日もレンズを通し可憐な花々に喜びの眼差しを送る。


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