話がすすむうちに会場全体は穏やかな空気に包まれていった。あたかも、幼子が母の懐に抱かれ無心に微笑んでいるような雰囲気であった。あちこちに、ハンカチをそっと目頭に当てる姿もあった。
これは去る十月一日、大徳寺昭輝(だいとくじてるあき)氏を紋別に迎えての講演会場での様子である。
大徳寺氏とは、神奈川県湯河原に「天命庵」という庵を結び、書家、舞踏家、歌手、心の語り部として多彩な活動を、国内ばかりでなく、広く世界に展開している三十三歳の若者である。昨秋、旭川講演会の折り、「是非紋別でも講演を」とお願いし、実現したものであった。会を行うにあたり私の二人の姉夫婦、他五人の十名で実行委員会を組織した。しかし私はじめ誰もがこのような大きい催し物を実行した経験はなく、すべて手探り状態であった。「この街での講演会には人が集まらない、というのが定説なんだよ」。さまざまな会を主催してきた友人が嫌みな忠告をくれた。ところが開演時間には二百五十名収容の文化会館ホールは、ほぼ満席の状態になっていた。
「すばらしいお話で、身も心も洗ってもらいました。いい講演会をありがとう」。多くの方々から感謝の言葉を頂き、改めて実感した。一人一人の力は小さくとも、十人が持ち味を出し合い自分の役割をしっかり努めるなら、なんと大きなことが出来るものかと。
「三人寄れば文殊の知恵」だが、「十人寄ると知恵プラス大いなる実行力」なのかもしれない。和を以って尊し。聖徳太子のこの思想は、仲良しクラブの勧めではなく、事にあたり、各人がきっちり責任を果たすことを言っているのだと感じ入った。